「宗門改帳」分析システム
検索利用マニュアル

研究代表者: 川口 洋(帝塚山大学・経営学部)
研究分担者: 上原 邦彦(帝塚山大学・経営学部)
日置 慎治(帝塚山大学・経営学部)
森下 淳也(神戸大学・国際文化学部)
代表者連絡先: 〒631-8501 奈良市帝塚山7-1-1
帝塚山大学経営-学部
Tel. 0742-48-8306 Fax. 0742-46-4994
Email: kawag@tezukayama-u.ac.jp
最終更新日: 2013年2月28日



1. はじめに

  研究代表者は,人口変動を地域特性としてとらえ,日常生活を構成する多様な要素の関連のなかで解釈することによって,近代移行期の地域変化を とらえる視座の構築を模索している。日本の総人口は,18世紀を通じて停滞していたが,19世紀中期からゆるやかに増加を始めた。ことに北関東・東北地方では, 1世紀におよんでいた人口減少が,18世紀末から19世紀前期を底として回復・増加に転じた。19世紀初頭,北関東・東北地方では,人口抑制を容認する社会から人口増加 を必要とする社会に構造的変化が生じたと予測される。持続的人口成長の開始は,伝統社会から近代社会への「助走」を端的に示す指標の一つと解釈される。

  近代移行期の人口をめぐる研究は,人口現象の復原を目的としていた初期的段階を経て,生産,流通,消費,あるいは生活水準といった民衆生活の 全貌を視野におさめて,人口現象の理解を深める方法論を模索する段階へと展開を遂げようとしている。このような動向のなかで,持続的人口増加開始の 要因となった地域構造の変化を追求することにより,近代移行期の初期局面における新たな地域像を描くことが期待される。

  現在のところ,持続的人口増加がどのような地域社会の状況下で始まり,明治以降に継続していくのか,という極めて素朴な課題に ついては,試論の域を出ていない。持続的人口増加が開始した初期局面における地域社会の具体像が不鮮明であるのは,江戸時代を対象とする研究者が, 人口,物価,交通,産業,芸能,思想・・・といった問題ごとに専門分化して,民衆生活の全体像を総合的に叙述する方向を指向していない近年の 社会科学全体の動向にも起因していると思われる。しかし,地域社会に生きる民衆の日常生活は,さまざまな要素の総体として存在しているはずである。 研究者の関心のままに,各地の史料をつまみ食いする研究方法によって,民衆生活の全体像を浮き彫りにすることは困難である。社会史のなかには, 問題史への細分化に対する反動として,家族などの小規模な社会単位のなかに「等身大の歴史」を描き出す動向も芽生えている。

  他方,江戸時代における民衆の生活は,家族構造,出産力などの基礎的な側面で,地域差に富んでいたことが近年改めて指摘された[1]。 したがって,近代移行期における民衆生活の理解を深めるには,個別集落の地域的特色を全国的展望のなかに位置づけ,地域差の生じた要因を解明し, 地域変化の構造解明をめざす歴史地理学の研究方法が有効と思われる。

  このような課題を追求する第1段階として,地域社会が保存している古文書史料を組織的に収集,蓄積,分析する研究方法を開発することが求められる。 本稿では,江戸時代に作成された人口に関する史料を分析するために構築中の「宗門改帳」分析システムの開発状況について報告する。

2. 入力史料の概要

2.1 記載内容

  江戸時代の日本では,「宗門改帳(しゅうもんあらためちょう)」と総称される古文書史料が,17世紀末から19世紀中期の明治初年 まで,全国で作られていた。たとえば,陸奥国会津郡,大沼郡,下野国塩谷郡(現在の福島県南会津郡,大沼郡,栃木県塩谷郡)の一部を 含む南山御蔵入領(みなみやまおくらいりりょう)では,元禄7(1694)年あるいは元禄8年から明治3(1870)年まで毎年,村ごとに 名主の手によって作成され,代官所と自宅に1部づつ保管されていた。

  南山御蔵入領に所属する陸奥国会津郡小松川村(現,福島県南会津郡下郷町)には,散逸した9年分を除いて,寛政4(1792)年から慶応4(1868)年 に至る77年間の「宗門改人別家別書上帳」が保存されている。この史料には,記載単位ごとに,旦那寺の本末関係,所在地,宗派,旦那寺の名称, 持高,質地,家屋規模,屋根の材料,構成員の名前,筆頭者との続柄,年齢,異動,牛馬数,世帯規模などが記録されている(第1図)。

第1図 史料の書式(佐藤仁夫家文書「寛政四年 宗旨家数人数書上帳 小松川村他四ヶ村」)


  史料的性格を検討すると,南山御蔵入領における「宗門改人別家別書上帳」は,現住人口を世帯単位に記録した史料であり,婚姻,養子縁組, 奉公などの異動が生じてから史料に登録されるまでの期間は,多くの場合1年以内であったことが確認できる[2]

  「宗門改帳」が,継年的に保存されている村では,史料的制約に十分留意すれば,人口変動のほかにも,初婚年齢,死亡年齢,養子 や婚姻による人口移動といった人口再生産構造に影響を持つ人口学的指標を長期間にわたって求めることができる。さらに,家族形 態,家族周期,相続や改名に関する慣習など,民衆生活の具体像を示す情報を知ることも可能である。

2.2 保存状況

  国外の研究者のなかには,このように豊富な内容を持つ「宗門改帳」の存在に注目して,日本を宝島と呼ぶ者も いるようである。「宗門改帳」の全国的な所在調査は,現在進行中であるため,ここでは思い切って,南山御蔵入領の保存状況を全国に 普遍化することにより,人口学的分析に耐える史料が保存されている村の数を推計したい。

  南山御蔵入領には 271ヶ村が所属している。このうち,50年以上にわたって毎年の「宗門改人別家別書上帳」が保存されている村は, 陸奥国会津郡石伏村,鴇巣村,金井沢村,小松川村,大窪村,寺山村,寺村,沢入村,泥島村,大沼郡桑原村の10ヶ村である。したがって, 271 ヶ村のうち3.7%の村で長期間の人口学的指標を求めることができる。

  全国で50年以上にわたる「宗門改帳」が保存されている村の割合を,ひとまず南山御蔵入領と同様3.7%と仮定する。『天保郷帳』によれば, 天保5(1834)年,北海道,沖縄,小笠原などをのぞく日本列島中央部に, 63,562の村が存在した。したがって,全国で2,350余りの村において,長期間にわたる 「宗門改帳」が保存されていると推計される。天保5年における平均的な村の人口規模は,約 420人なので,記録されているのは延べ 4,937万人,和紙1枚に約10人分が記録できるとすると,史料の枚数は合計 494万枚と見積もることができる。

  「宗門改め」の制度は藩によって多様であり,史料の保存状況も地域差が大きい。6年に1度しか「宗門改め」を実施しなかった 水戸藩,紀州藩などの諸藩もみられる。これに対して,南山御蔵入領は,日本でも有数の史料の宝庫である。そのため,実際に 「宗門改帳」が保存されている村は,2,350ヶ村を相当下回ると思われる。それにしても,近代的国家の成立以前に,50年以上の期間に わたって数百ヶ村もの人口現象を分析できる国は,おそらく日本に限定されると思われる。質,量ともに,宝島と呼ばれるのにふさわ しい史料を作成,保存してきたのが日本社会の特色の一つである。

3. システム構築の目的

  「宗門改帳」の分析方法の開発は,1960年代に,教区簿冊(parish register)から人口学的指標を求めるためにフランスで考案された 家族復元法を日本の史料に応用した時点から本格化した[3]。家族復元法は,「宗門改帳」の内容を包括的に分析可能にしただけでなく, ヨーロッパの教区簿冊から把握することのできないライフ・パスの復元を実現した点で画期的な業績であった。しかし,手作業による家族 復元法には,史料読解から人口学的指標算出に至る研究過程の短縮,再現性の確保といった点で改良の余地が残されていた。

  筆者は,「宗門改帳」から様々な人口学的指標を計算する史料整理の作業をできるだけ自動化する「しくみ」を作ろうと計画している。 この「しくみ」を「江戸時代における人口分析システム,DANJURO(Demographic analyzing system in Tokugawa Japan using the relational database of Shumon-aratame-Cho)」と名付けた。1980年代後半に開発作業が行われたDANJURO ver.1は,大型計算機上に構築されていた[4]。 史料を読解した文字データを登録した「宗門改帳」データベースと,データベースから必要な情報を検索して約60項目の人口学的指標を出力するプログラム群 から構成されている。手作業で行われていた旧来の研究方法と比較すると, ver.1によって史料読解から人口学的指標算出までの作業時間が大幅に短縮されたため, 所期の開発目的を達成できたと評価できる。しかし,当時の技術水準では解決できない課題を残していたので, ver.2の構築を始めた。システム構築の目的は, 以下の4点である。

3.1 作業時間の短縮

  本システム構築の第一目的は,「宗門改帳」から人口学的指標を正確,迅速に算出することによって,民衆生活の具体像を復原する研究 を支援することである。このような目的で作られた ver.1を含む従来のシステム[5]は,文字,あるいは数値データに基づいて構築された。 一旦入力されたデータから人口学的指標を計算する作業時間は,旧来の手作業による研究方法と比較すると確かに短縮された。しかし, 最も作業時間を必要とする史料読解と文字データ入力は,依然として史料読解能力を持つ研究者の手作業で行われている。この作業過程を 短縮することができれば,研究者が出力された人口現象の理解を一層深める時間的余裕が生まれる。

3.2 再現性の確保

  江戸時代における人口分析を行った従来の研究では,史料が大量であったために,史料読解,整理といった研究過程の再現性は必ず しも保障されていなかった。「宗門改帳」は,古文書読解の専門的な訓練を受けた研究者であっても,誤読をする可能性がある。他方, 年齢や筆頭者との続き柄などについて,史料自体に誤記がみられる場合もみられる。さらに,江戸時代末期の天保5(1834)年における 村の平均的な人口規模は約 400人と小規模であるため,わずかな史料の誤記や誤読が,人口学的指標の数値に大きな影響を与える。人口 現象を正確に復原するためには,「宗門改帳」を読解した文字データと古文書画像データを公開することによって,研究過程に再現性を 持たせ,史料の解釈などに対する一般利用者の意見をシステム改良にフィードバックすることが必要となる。

3.3 古文書史料の保存

  「宗門改帳」は,作成されてから 100年以上経過している。したがって,史料のなかには廃棄,売却,あるいは襖の下張りなどに流用 されたり,「死失」や「・・・村へ縁付き」といった異動を記録した付箋が剥がれて,散逸してしまう場合もみられる。さらに,史料には, 虫喰いの穴があいたり,日光に当たって変色していたり,ネズミやネコの小便や糞で汚れていたり,ページとページが板状に張りついてい るものも少なくない。このような汚れは,史料の劣化と呼ばれている。もちろん,史料の散逸,劣化は,時間の経過とともに進行する。 こうした散逸,劣化が進む前に,史料の現況を画像情報としてコンピュータに蓄積することによって,貴重な史料の保存を図る必要がある。

3.4 分析方法の共有

   「宗門改帳」から復原することのできる様々な人口現象は,国際比較の可能性がある。そのため,江戸時代の民衆生活に関心を持って いる研究者は,日本人に限定されない。国外の研究者が難解な古文書を史料として報告を行い,討論に参加するケースもみられる。 もちろん,日本人研究者が国際会議で報告する機会も増加している。

  内外の研究者にとって,全国の史料所在調査を行って,直に古文書に接し,読解することは容易なことではない。「宗門改帳」 古文書画像データベースと人口学的指標を算出するプログラムを共同利用することによって,研究者間で史料と分析方法を共有することが できれば,人口現象の国際比較を行うための基礎的な研究環境を整えることができる。

4.データ入力の方法

4.1 文字データの入力

  ワードプロセッサーを用いて,史料の書式をできる限り踏襲して「宗門改人別家別書上帳」の記載単位ごとに,一定の形式に したがって入力した[6]。入力作業の効率化を図るために,「宗門改人別家別書上帳」1冊(1年分)を一つのファイルに書き込み,1年 分の入力を終了すると,翌年分のファイルにも保存して,年齢,史料作成年次,および異動のあった部分を書き改めた(第2図)。

第2図 文字データの入力例(第2図は,第1図の史料に対応している。)


  史料の記載内容以外に,家番号,個人番号,名前(ローマ字),配偶関係,同居世代数,下人・同家人など家族外同居者の有無,および世帯構造コード を書き加え,奥付の文章は入力を省いた。世帯構造は,P.ラスレットの分類にしたがって分類コードを入力した。史料作成 時点に在住している者を基準として前年度の調査以降に転入,出生した者の異動理由,異動内容,および翌年度の調査までに転出,死亡 した者の異動理由,異動内容を記入した。異動理由には,出生,死亡,結婚,養子,奉公,改名,出産など,異動の内容を要約した用語を記入した。 異動理由が不明の場合には,「不明」と入力する。移動が生じたの場合には,移動先の集落名に国名,郡名などを付け加え,移動先が不明の場合には, 集落名の代わりに「?」記号を異動内容に入力した。「宗門改人別家別書上帳」以外の史料に基づいて移動先などを補足した場合には,「’ ’」記号を付して 出所の別を示した。村の内部で結婚,養子,名跡,別家などの社会移動があった場合には,転出,転入時点で重複して入力される。 重複を避けるために,転出時の移動理由を「( )」記号で修飾して区別した。

4.2 画像データの入力

  「宗門改帳」をはじめ和紙に筆墨で書かれた古文書の画像情報をデジタル化する方法として,①イメージ・スキャナーを用いて取り 込む,②デジタル・カメラで撮影する,③写真撮影したうえで,フィルム・スキャナーを用いて取り込む,という3種類があげられる[7]。 検討の結果,鮮明な画像データを比較的廉価で作成できる点,史料の保存機関に持ち込む機器が簡便である点,過去に撮影されたフィルム をデータベース構築の資源として継承することができる点などを考慮して,③の方法を用いて古文書の画像情報をデジタル化するのが妥当 と判断した。

  具体的には,カメラ(NIKON F2,NIKOR 55mm/F3.5)を照明台の上に固定して,ハロゲンランプで照明を当て,FUJICOLOR SUPER G ACE 400のフィルムで,史料の見開き2ページを1画像として写真撮影した。次に,フィルムをPHOTO-CDに書き込んだ。PAINT SHOPを用いて, PHOTO-CDから1536 x 1024 DOTSの解像度で画像を読み込み,グレイスケール(256階調)に調整,ノーマルフィルター(シャープ強)をかけ ,1世帯を1画像に編集した後,JPEG形式で保存した(第1図)。小松川村の75年におよぶ「宗門改人別家別書上帳」は,1695画像,412.5MB,1画像 平均243.4KBの容量で保存された。

     近年,史料のデジタル化については,35mm color reversal film であるKodachrome 25 Professionalの分解能が検証され,GENASCAN 5000の量子化誤差が計測された[8]。 また,画像データからしみや汚れを取り除く劣化画像回復の研究が進展をみせている[9]。高精度の再現性を保証する史料のデジタル化を行ううえで, このような技術的成果は注目に値する。

5. システムの構成

  本システムは,データの構造を表形式で表現する関係データベース (RDB)の1種であるORACLE 9.2.0をデータベース管理システム(DBMS), Oracle Web Application Server 9.02をWeb Serverとして構築されている。利用者側のコンピュータには,Microsoft Internet Explore 6.0以上, Netscape Navigator 7.0以上といったブラウザー,およびMicrosoft Excel 2000以上を準備する必要がある。

  本システムのURLは,http://kawaguchi.tezukayama-u.ac.jpである。接続すると,入り口ページに続いて利用規程ページが開く。利用規程に同意すると, 「江戸時代における人口分析システム」・トップページが開く。さらに,「宗門改帳」分析システムを選択すると第3図のインデックス・ページが表示される。

第3図 「宗門改帳」分析システム・インデックス・ページ


  本システムは,「検索利用マニュアル」,「「宗門改帳」古文書画像データベース」,「「宗門改帳」分析プログラム」から構成されている。利用者が,インデックス・ページの「「宗門改帳」古文書画像データベース」, または「「宗門改帳」分析プログラム」を選択してクリックすると,「ユーザ名」と「パスワード」の認証画面が開く。両者は,利用者からシステム管理者に利用申請がされた場合,審査を経て交付される。

6. 「宗門改帳」古文書画像データベースの検索利用方法

  現在のところ,本データベースには,7ヶ村,延べ101,794人,延べ22,795世帯の情報が登録されている(第1表)。

 
第1表 「宗門改帳」古文書画像データベースに登録されているデータ
集落名現在地史料の年代延べ人数延べ世帯数古文書画像の有無
 陸奥国会津郡石伏村  福島県南会津郡只見町 1752-181211,5932,321
 陸奥国会津郡小松川村  福島県南会津郡下郷町 1792-18687,3381,771
 陸奥国会津郡鴇巣村  福島県南会津郡南郷村 1790-185918,1554,349
 陸奥国大沼郡桑原村  福島県大沼郡三島町 1750-1834,1840-185811,4862,518
 武蔵国多摩郡中藤村  東京都武蔵村山市 1843-186412,0961,997
 摂津国武庫郡上瓦林村  兵庫県西宮市 1750-181920,3044,526
 摂津国八部郡花熊村  兵庫県神戸市 1789-186920,8225,313

  「宗門改帳」古文書画像データベースは,ア)個人情報,イ)世帯情報,ウ)古文書画像情報,エ)史料書誌情報という4つのテーブルから構成 されている。各テーブルのデータ項目(フィールド名)は以下に示される。アンダーラインを引いたデータ項目が古文書画像データ,斜体太字のデータ項目が数値データ, それ以外は日本語文字データである。


ア)個人情報テーブル
 集落名(国郡村)  村の位置(北緯)  村の位置(東経)  西暦  世帯番号  個人番号 
 名前(ローマ字)  名前(漢字)  性別  年齢   筆頭者との続き柄  配偶関係 
 宗教・宗派  旦那寺の所在地  旦那寺  異動事項  異動内容  村役人・百姓身分 

イ)世帯情報テーブル
 集落名(国郡村)  村の位置(北緯)  村の位置(東経)  西暦  世帯番号 
 筆頭者名(ローマ字)  筆頭者名(漢字)  家族人数(男性)  家族人数(女性)  譜代下男人数 
 譜代下女人数  質券下男人数  質券下女人数  同家人人数(男性)  同家人人数(女性) 
 世帯規模  世帯構造  家族外同居者  同居世代数  牛数 
 馬数  持高(石)  家屋規模(縦 x 横,間)  屋根材料 

ウ)古文書画像情報テーブル
 集落名(国郡村)  西暦  世帯番号  古文書画像 

エ)史料書誌情報テーブル
 集落名(国郡村)  西暦  史料作成年月日(和暦)  史料名  史料作成者 
 史料所蔵者  史料保存機関  古文書史料表紙画像  古文書史料奥付画像 


6.1 個人情報の検索方法

  インデックスページから「宗門改帳」古文書画像データベースを選択すると,第4図に示した画面が開く。

第4図 『「宗門改帳」古文書画像データベース』ホーム


  第4図の画面から「個人情報の検索」,「世帯情報の検索」,「古文書画像情報の検索」,または「史料書誌情報の検索」を選択してクリックする。たとえば, 「個人情報の検索」を選択すると,検索条件の入力画面が表示される(第5図)。

第5図 「個人情報の検索」検索条件入力画面


  利用者は,プルダウン,ラジオ・スイッチなどにより検索条件を入力する。利用者は,最初に「集落名」をプルダウンから選択する。「西暦」は, 「集落名」を選択すると自動的に表示される。「世帯番号」,「個人番号」,および「年」,「歳」といった単位がついているデータ項目については, 数字で検索条件を入力する。

  「宗教・宗派」のプルダウンには,「真言宗」,「天台宗」,「浄土宗」,「真宗・浄土真宗」,「一向宗」,「高田宗」,「日蓮宗」, 「法華宗」,「臨済宗」,「曹洞宗」,「時宗」,「唯一神道」,「本山派」,「当山派」が登録されている。

  「異動事項」のプルダウンには,「出生」,「改名」,「養子」,「養女」,「奉公」,「年季明け」, 「移動」,「別家」,「欠落」,「行方不明」,「帳はずれ」,「結婚」,「筆頭者」,「不縁」,「離別」,「連れ子」,「名跡」,「養父」, 「養母」,「出産」,「死亡」,「不明」が登録されている。「異動事項」には,論理積(and),論理和(or)のスイッチを付し, 3項目まで検索条件を指定できる。

  「村役人・百姓身分」のプルダウンには,「大庄屋」,「庄屋」,「名主」,「年寄」,「組頭」,「百姓代」,「本役人」,「半役人」, 「柄在家」,「下男」,「下女」,「下人」,「医者(医師)」,「住職」,「宮守」,「歩行」が登録されている。

  第5図では,陸奥国会津郡小松川村において,1792年から1868年までの期間に年齢が85歳以上の女性を検索するため, 「集落名」に「陸奥国会津郡小松川村」,「西暦」に「1792」~「1868」,「性別」に「女」,「年齢」に「85」歳~を検索条件に指定している。

  「個人情報の検索」の検索条件入力画面下部にある「検索」ボタンをクリックすると,検索が始まり,検索結果のブラウジング画面が表示される(第6図)。

第6図 検索結果のブラウジング画面


  検索結果のブラウジング画面には,検索対象キーワード,ヒット件数,および検索結果が1ページについて20件表示される。このブラウジング画面に表示されるのは, データ項目の一部分である。

  第6図によれば,「集落名」に「陸奥国会津郡小松川村」,「西暦」に「1792」~「1868」,「性別」に「女」,「年齢」に「85」歳~を検索条件とした検索の結果, 13件のデータがヒットしている。

  検索結果のブラウジング画面左端にある「ID」をダブルクリックすると,「個人情報の詳細表示」画面が表示される(第7図)。

第7図 「個人情報の詳細表示」と「古文書画像情報」,「史料書誌情報」,「世帯情報」の対照


  第7図では,「個人情報の詳細表示」画面下部のボタンを押して,「古文書画像情報」,「史料書誌情報」,および「世帯情報」を表示している。

  「個人情報」,「世帯情報」,「古文書画像情報」の各詳細表示画面には,対応する他のテーブルを検索・表示するためのボタン を付した。利用者が文字データに誤読の疑いを抱いた場合,あるいは史料のレイアウト,文字の配列,筆跡,印形といった文字データ として登録することのできない画像情報を調べたい場合などには,個人情報・世帯情報の文字データ,古文書画像情報・史料書誌情報 の画像データを,同一画面上で対照することができる。このようにして,一般利用者がシステム構築者の史料整理の過程を再現,検討 できる環境をコンピュータのうえに構築した。

  第6図の検索結果のブラウジング画面下部にある「download項目の選択」ボタンを押すと,downloadする項目とソートキーを指定する画面が表示される(第8図)。

第8図 「download項目の選択」画面


  第8図の「download項目の選択」画面では,「集落名」,「西暦」,「個人番号」,「名前(漢字)」,「性別」,「年齢」,「筆頭者との続き柄」,「配偶関係」, および「異動事項」を表示に,「西暦」をソートキーに選択している。

  利用者が,第8図の画面下部にある「downloadの実行画面へ」のボタンを押すと,「downloadの実行」画面が表示される(第9図)。

第9図 「downloadの実行」画面


  第9図の「downloadの実行」画面下部にある「download」ボタンを押すと,検索結果をCSVファイルとして利用者側のコンピュータにdownloadすることができる。 downloadされたcsvファイルを示す(第10図)。

第10図 downloadされたcsvファイル


  第10図によれば,小松川村において85歳以上の女性は3人確認され,個人番号「11」の人物は90歳,「52」の女性は86歳,「28」の「せん」は90歳でそれぞれ死亡している。 従来の研究法では,「宗門改帳」を横断的に調べなければならなかったために,個人のライフコースの復原には多大な時間を必要とした。 しかし,本システムでは,極めて簡単な操作で短時間に検索結果を得ることができる。

6.2 世帯情報の検索方法

  『「宗門改帳」古文書画像データベース』ホームから「世帯情報の検索」を選択すると,検索条件の入力画面が表示される(第11図)。

第11図 「世帯情報の検索」検索条件入力画面


  利用者は,プルダウン,ラジオ・スイッチなどにより検索条件を入力する。利用者は,最初に「集落名」をプルダウンから選択する。「西暦」は, 「集落名」を選択すると自動的に表示される。「世帯番号」,および「年」,「人」,「世代」,「匹」,「石」といった単位がついているデータ項目については, 数字で検索条件を入力する。「世帯構造」のプルダウンには,P.ラスレットの分類にしたがって,「1.Solitaries」,「11.Widowed」,「12.Single, or of unknown marital status」, 「2.No family」,「21.Coresident siblings」,「22.Coresident relations of other kinds」,「23.Persons not evidently related」,「3.Simple family households」, 「31.Married couples alone」,「32.Married couples with child(ren)」,「33.Widowers with child(ren)」,「34.Widows with child(ren)」, 「4.Extended family households」,「41.Extended upwards」,「42.Extended downwards」,「43.Extended laterally」,「44.Combinations of 41-43」, 「5.Multiple family households」,「51.Secondary units up」,「52.Secondary units down」,「53.Secondary units lateral」,「54.Frereches」, 「55.Other multiple family households」が登録されている[10]

  第6図では,陸奥国会津郡小松川村において,1792年から1868年の期間に存在した世帯規模が5人から10人の世帯のなかで,夫婦と子供から構成される世帯 (32.married couples with child(ren))を検索している。「集落名」に「陸奥国会津郡小松川村」,「西暦」に「1792」~「1868」,「世帯規模」に「5」人~「10」人, 「世帯構造」に「32.Married couples with child(ren)」を検索条件に指定している。

  「世帯情報の検索」の検索条件入力画面下部にある「検索」ボタンをクリックすると,検索が始まり,検索結果のブラウジング画面が表示される(第12図)。

第12図 検索結果のブラウジング画面


  検索結果のブラウジング画面には,検索対象キーワード,ヒット件数,および検索結果が1ページについて20件表示される。このブラウジング画面に表示されるのは, データ項目の一部分である。「次ページ」ボタンを押すと,次の20件が表示される。

  第12図によれば,「集落名」に「陸奥国会津郡小松川村」,「西暦」に「1792」~「1868」,「世帯規模」に「5」~「10」,「世帯構造」に「32.Married couples with child(ren)」 を検索条件とした検索の結果,25件のデータがヒットしている。

  検索結果のブラウジング画面左端にある「ID」をダブルクリックすると,「世帯情報の詳細表示」画面が表示される(第13図)。

第13図 「世帯情報の詳細表示」と「古文書画像情報」,「史料書誌情報」,「筆頭者の個人情報」の対照

(第13図は,第1図の史料と対応している。)


  第13図では,「世帯情報の詳細表示」画面下部のボタンを押して,「古文書画像情報」,「史料書誌情報」,および「筆頭者の個人情報」を表示している。

  第12図の検索結果のブラウジング画面下部にある「download項目の選択」ボタンを押すと,downloadする項目とソートキーを指定する画面が表示される(第14図)。

第14図 「download項目の選択」画面


  第14図の「download項目の選択」画面では,「西暦」,「世帯番号」,「筆頭者名(漢字)」,「家族人数(男性)」,「家族人数(女性)」, 「世帯規模」,「家族外同居者」,および「持高」を表示に,「持高」をソートキーに選択している。

  利用者が,第14図の画面下部にある「downloadの実行画面へ」のボタンを押すと,「downloadの実行」画面が表示される(第15図)。

第15図 「downloadの実行」画面


  第15図の「downloadの実行」画面下部にある「download」ボタンを押すと,検索結果をCSVファイルとして利用者側のコンピュータにdownloadすることができる。 downloadされたcsvファイルを示す(第16図)。

第16図 downloadされたcsvファイル


6.3 古文書画像情報の検索方法

  『「宗門改帳」古文書画像データベース』ホームから「古文書画像情報の検索」を選択すると,検索条件の入力画面が表示される(第17図)。

第17図 「古文書画像情報の検索」検索条件入力画面


  利用者は,最初に「集落名」をプルダウンから選択する。「西暦」は,「集落名」を選択すると自動的に表示される

  第17図では,陸奥国会津郡小松川村における1792年から1868年の古文書史料を検索している。「集落名」に「陸奥国会津郡小松川村」,「西暦」に「1792」~「1868」 を検索条件に指定している。

  「古文書画像情報の検索」の検索条件入力画面下部にある「検索」ボタンをクリックすると,検索が始まり,検索結果のブラウジング画面が表示される(第18図)。

第18図 検索結果のブラウジング画面


  検索結果のブラウジング画面には,検索対象キーワード,ヒット件数,および検索結果が1ページについて20件表示される。「次ページ」ボタンを押すと,次の20件が表示される。

  第18図によれば,「集落名」が「陸奥国会津郡小松川村」,「西暦」が「1792」~「1868」を検索条件とした検索の結果,1771件のデータがヒットしている。

  検索結果のブラウジング画面左端にある「ID」をダブルクリックすると,「古文書画像情報の詳細表示」画面が表示される(第19図)。

第19図 「古文書画像情報の詳細表示」


  第19図では,「古文書画像情報の詳細表示」画面下部のボタンを押して,「世帯情報」と「史料書誌情報」を表示している。

  第18図の検索結果のブラウジング画面下部にある「download」ボタンを押すと,検索結果をCSVファイルとして利用者側のコンピュータにdownloadすることができる。 downloadされたcsvファイルを示す(第20図)。

第20図 downloadされたcsvファイル


6.4 史料書誌情報の検索方法

  『「宗門改帳」古文書画像データベース』ホームから「史料書誌情報の検索」を選択すると,検索条件の入力画面が表示される(第21図)。

第21図 「史料書誌情報の検索」検索条件入力画面


  利用者は,最初に「集落名」をプルダウンから選択する。「西暦」は,「集落名」を選択すると自動的に表示される

  第21図では,陸奥国会津郡小松川村における1792年から1868年の古文書史料を検索している。「集落名」に「陸奥国会津郡小松川村」,「西暦」に「1792」~「1868」 を検索条件に指定している。

  「史料書誌情報の検索」の検索条件入力画面下部にある「検索」ボタンをクリックすると,検索が始まり,検索結果のブラウジング画面が表示される(第22図)。

第22図 検索結果のブラウジング画面


  検索結果のブラウジング画面には,検索対象キーワード,ヒット件数,および検索結果が1ページについて20件表示される。このブラウジング画面に表示されるのは, データ項目の一部分である。「次ページ」ボタンを押すと,次の20件が表示される。

  第22図によれば,「集落名」が「陸奥国会津郡小松川村」,「西暦」が「1792」~「1868」を検索条件とした検索の結果,68件のデータがヒットしている。

  検索結果のブラウジング画面左端にある「ID」をダブルクリックすると,「史料書誌情報の詳細表示」画面が表示される(第23図)。

第23図 「史料書誌情報の詳細表示」


  第22図の検索結果のブラウジング画面下部にある「download」ボタンを押すと,検索結果をCSVファイルとして利用者側のコンピュータにdownloadすることができる。 downloadされたcsvファイルを示す(第24図)。

第24図 downloadされたcsvファイル


7. 「宗門改帳」分析プログラムの利用方法

  「宗門改帳」分析プログラムを実行するには,利用者側のコンピュータにExcel 2000以上が準備されている必要がある。現在のところ,以下に示した62項目の指標をグラフ表示する プログラムが利用できる。

①人口増加に関する指標
 人口  世帯数  人口増加率  牛馬数 

②出生・死亡に関する指標
 出生数  普通出生率  出生性比  総出生率  子供と女性の比率  出産年齢 
 出産回数  死亡数  普通死亡率  死亡性比  死亡年齢  自然増加率 

③結婚・人口移動に関する指標
 婚姻者数  結婚年齢  初婚年齢  結婚回数  流入数  流入率  流出数  流出率  純移動率 

④出生・死亡・結婚・人口移動以外の異動に関する指標
 奉公人となった人数  奉公人となった年齢  改名した人数  改名した年齢  改名した回数 
 養子となった人数  養子となった年齢  筆頭者となった人数  筆頭者となった年齢 

⑤人口構造に関する指標
 平均年齢  5歳階級別人口  年齢階層別人口  5歳階級別年齢構造係数 
 年齢構造係数  年齢構造指数  性比  年齢階層別性比 
 配偶関係別人口  有配偶率・未婚率  宗教・宗派別人口  宗教・宗派別人口の構成比 

⑥世帯構造に関する指標
 平均世帯規模  世帯規模別世帯数  世帯規模別世帯数の構成比  持高 
 持高別世帯数  持高別世帯数の構成比  世帯規模と持高の相関  家族形態別世帯数 
 家族形態別世帯数の構成比  同居世代別世帯数  同居世代別世帯数の構成比  下男・同家人同居世帯数 
 下男・同家人同居世帯数の構成比  一世帯あたりの平均夫婦組数  牛馬所有世帯数  牛馬所有世帯の構成比 


  「宗門改帳」分析システム・インデックス・ページから「「宗門改帳」分析プログラム」を選択すると,第25図の画面が表示される。

第25図 「宗門改帳」分析プログラム・ホーム


  「宗門改帳」分析プログラムを実行するには,グラフ作成用マクロファイルとデータファイルの両者を利用者側のコンピュータにdownloadする必要がある。 まず,第25図の「宗門改帳」分析プログラム・ホームに示した62項目の指標左側にあるフロッピー・ディスクのマークをクリックすると,グラフ作成用マクロファイルが 利用者の指定したドライブにdownloadされる。次に,「宗門改帳」分析プログラム・ホームから下線を引いた指標をクリックすると,検索条件入力画面が表示される(第26図)。

第26図 「年齢構造係数データの検索」画面


  「年齢構造係数」の場合には,検索条件として「集落名」と「西暦」を指定する(第26図)。検索条件入力画面下部の「検索」ボタンを押すと 検索・計算が実行され,続いてdownloadの実行画面が表示される(第27図)。

第27図 「年齢構造係数データのdownload」画面


  downloadの実行画面には,検索対象キーワードが表示される。この画面下部にある「download」ボタンをクリックすると,CSV形式のデータが利用者側コンピュータにdownloadされる。

  利用者側コンピュータの「デスクトップ」などにdownloadされたグラフ作成用マクロファイルをダブルクリックして実行させ,データファイルを指定すると, 人口学的指標がグラフ表示される。たとえば「年齢構造係数」の場合には,第28図のグラフが表示される。

第28図 陸奥国会津郡小松川村における年齢構造係数(1792-1868)


  第28図によれば,総人口に占める15歳未満人口の百分率を示す年少人口係数は,1792年の約31%から1805年の約10%まで下降した後,上昇を始め, 1867年には約38%に達した。逆に,総人口に占める60歳以上人口の百分率を示す老年人口係数は,1792年の約11%から1821年の約32%まで上昇した後, 下降を始め,1867年には約10%となった。人口の三分の一が60歳以上の老人であった時期には,日常生活がどのような状況であったか想像することは容易ではない。

  小松川村で観察された年少人口係数の上昇と老年人口係数の下降は,1840年以降の持続的人口増加開始期の南山御蔵入領全域に共通するものと予測される。 このような事例がどの地域的範囲に共通する人口現象であるのか検証するには,より多くの古文書史料の蓄積,分析が必要となる。

8. 出力例

  本システムに登録されている6ヶ村で出生した女性の平均初婚年齢と,同居世代数を分類基準とした1800年における家族構造を示した。 初婚年齢は,結婚持続期間,家族構造,家族周期などに影響を与える重要な指標である。

第2表 平均初婚年齢の地域差(女性)
集落名出生期間婚姻者数(人)平均初婚年齢(歳)
 陸奥国会津郡石伏村 1752-17711316.4
 陸奥国会津郡鴇巣村 1790-18092119.3
 陸奥国会津郡鴇巣村 1810-18293119.4
 陸奥国会津郡小松川村 1792-18111119.4
 陸奥国大沼郡桑原村 1750-17691518.7
 陸奥国大沼郡桑原村 1770-17891021.5
 陸奥国大沼郡桑原村 1790-18091819.3
 摂津国武庫郡上瓦林村 1750-17693822.4
 摂津国武庫郡上瓦林村 1770-17893825.4
 摂津国八部郡花熊村 1789-18082726.4
 摂津国八部郡花熊村 1809-18282827.4


第3表 同居世代数の地域差(1800年)
 集落名 1世代同居世帯2世代同居世帯3世代以上同居世帯全世帯数
 陸奥国会津郡石伏村 3(8%)14(36%)22(56%)39
 陸奥国会津郡鴇巣村 8(13%)29(46%)26(41%)63
 陸奥国会津郡小松川村 2(10%)9(43%)10(48%)21
 陸奥国大沼郡桑原村 2(8%)10(41%)12(50%)24
 摂津国武庫郡上瓦林村 6(11%)33(59%)17(30%)56
 摂津国八部郡花熊村 12(17%)39(56%)19(27%)70

  第2表によれば,南山御蔵入領,阪神地域内部における村落間の平均初婚年齢は,それぞれ近接している。一方,両地域間の平均初婚年齢には, 4~8年もの大きな差違がみとめられる。阪神地方の村と比較すると初婚年齢の低い南山御蔵入領では,2世代同居世帯よりも3世代以上が同居している世帯 が卓越している(第3表)。

  内務省総務局戸籍課が編纂した「明治十九年 日本帝國民籍戸口表(明治19(1886)年)」によれば,東北日本における早婚,西南 日本における晩婚の地域的傾向は,明治中期にも確認できる。数え年20歳の女性の有配偶率は,岩手県,青森県,秋田県,福島県では50% を越え,逆に大阪府,和歌山県,鹿児島県では20%に満たない。わずか6ヶ村の比較でしかないが,結婚年齢,家族構造などの地域差が 反映していると判断できる。

  初婚年齢の地域差は,明治中期以降,次第に接近する。民衆生活の基本的な側面における均質化の傾向こそ,近代移行期の日本を特色 づける一側面とみられる。人口現象の地域差は,近年ようやく研究者に認識されるようになってきた。人口現象の類型化,地域差が生じた 要因などについては,未着手というほかない。「宗門改帳」の分析結果を蓄積して,全国的展望のもとに個別集落の地域的特色を位置づけ る歴史地理学の方法論を駆使した研究の展開が期待される。

9. おわりに

  江戸時代と現在との間に架橋して,民衆生活の人口学的側面における変貌過程を検討する場合,歴史地理学では人口再生産構造の 時系列的変化と地域差の解明が当面の課題となる。具体的には,持続的人口成長の開始時期と地域差,人口再生産構造を規定する初婚 年齢,出産力,結婚持続期間,平均余命などの地域差の変化とその要因,婚姻や労働を契機とした人口移動の変化などの解明が求められる。 全国を同一の基準で調査した統計資料が存在しない江戸時代においては,各地に保存されている古文書史料を時間的にも地域的にも大量に 収集,蓄積,分析する必要がある。

  「宗門改帳」分析システムは,以上の目的のために構築された歴史地理学分野で日本最初のシステムである。 今後に残された課題も少なくない。

  第一に,家系図をグラフィック表示する機能を付加したい。文化人類学分野では,アボリジニの親族関係をグラフィック表示するシステム の開発が進められており,今後の展開,および「宗門改帳」への応用が期待される[11]

  第二に,英語ページを作成したい。国外の研究者が「宗門改帳」を含む古文書史料を素材として,江戸時代の研究を行う事例も増加している。 本システムは,古文書史料に直接アクセスすることが容易でない国外研究者も利用者として想定している。英語ページを併設して言語の障壁を低く することにより,伝統社会における人口や家族研究の国際比較を視野に入れた研究環境を整備したい。

  第三に,算出した人口学的指標や人口移動を地形図に表示する機能を開発して,本システムを歴史地理学分野のGISとして発展させたい。

  第四に,古文書を保管している研究者や機関のコンピュータをネットワークで結び,相互に比較,活用できるような分散型データベース・システム の構築が望まれる。「宗門改帳」の保存状況が良好な集落は,先に推計したように相当数にのぼるため,全国的な史料収集を個人研究者が行うことはまず 不可能である。「宗門改帳」をはじめとする古文書は,散逸を避けるために現地保存が原則である。名主,庄屋をはじめとする村役人の 子孫や区長の家,市町村の教育委員会,図書館,あるいは資料館などで大切に保管されている。地域に生きた人々の生活の具体像を復原 するには,町や村の歴史を研究している地元の研究者や機関が,「宗門改帳」を一定の方法に基づいてデータベース化して人口学的指標 を求めるだけでなく,人口現象の地域的特色を相対的に位置づけることが必要となる。


[1]
速水 融(1997)『歴史人口学の世界』岩波書店
[2]
南山御蔵入領の史料吟味については,以下の文献に詳しい。
川口 洋(1990)江戸時代における人口分析の方法 -奥会津地域における「宗門改人別家別帳」のデータベース化を事例として-,歴史地理学,no.151,pp.16-33
[3]
速水 融・安元 稔(1968)人口史研究におけるFamily Reconstitution,社会経済史学,vol.34,no.2,pp.1-36
[4]
川口 洋(1995)コンピュータを用いた江戸時代における人口分析の方法,人文学と情報処理,no.7,pp.54-58
[5]
小野芳彦(1993)文化系の計算機利用II -データ入力のユーザーインタフェース(歴史人口学の場合)-,日本研究,no.8,pp.165-182
木下太志(1996)歴史人口学における人口指標算出およびグラフィック化のためのプログラム開発,平成7年度科学研究費(重点領域研究)研究成果報告書『人文科学とコンピュータ 1995年』,pp.529-542
森本修馬(1999)統計分析を目的とした近世史料のデータベース化 -入力・データ利用インターフェース,日本研究,no.19,pp.265-276
[6]
入力方法については,前掲[2]に詳しい。
[7]
このほかに,ビデオによる入力方法が開発されている。
柴山 守・星野 聰(1994)ビデオによる古文書画像の効率的入力法と自動接続処理,情報処理学会研究報告「人文科学とコンピュータ」,vol.94, no.14,pp.1-8
[8]  
柴田みゆき・箕浦暁雄・片岡裕・宮下晴輝(1998)北京版チベット大蔵経の高再現性デジタル画像化:写真撮影過程,情報処理学会研究報告「人文科学とコンピュータ」,vol.98, no.97,pp.73-80
柴田みゆき・箕浦暁雄・片岡裕・宮下晴輝(1999)北京版チベット大蔵経の高再現性デジタル画像化:高精度スキャニング過程,情報処理学会研究報告「人文科学とコンピュータ」,vol.99, no.59,pp.43-50  
[9]
山田奨治(1997)人文資料の劣化画像回復,人文学と情報処理,no.14,pp.49-55
[10]
ピーター・ラスレット著,酒田利夫・奥田伸子訳(1992)ヨーロッパの伝統的家族と世帯,リブロポート,pp.41-51
[11]
田中雅一・窪田幸子・杉藤重信・濱崎修平(1999)文化人類学における家族・親族領域を中心とするフィールドデータの処理と分析,1998年度科学研究費(特定領域研究)研究成果報告書『人文科学とコンピュータ』,pp.183-190